も早いほうがいいのだ。
 湖水につづく林の中の道から管理人が出てきたのを見るなり、久美子は玄関のテラスから問いかけた。
「どうしたんです?」
 実直そうな見かけをした中年の管理人は、テラスの下までやってくると、上眼で久美子の顔色をうかがいながら、低い声でこたえた。
「ちょっとお知らせに……」
「なんでしょう」
「ごぞんじだと思いますが、東洋銀行の事件を担当している捜査二課の神保係長と、捜査一課の加藤刑事部長が、いま伊東署で打ち合せをしているふうなんで……」
 自分に関係のあることだと思えないので、久美子は自分でもはっとするような冷淡な口調になった。
「それで?」
 管理人は呆気にとられたような表情で、久美子の顔を見ていたが、おしかえすような勢いで、
「十分ほど前、湖水会の事務所へ、間もなくそちらへ行くと、伊東署から連絡がありました」
 といい、腕時計に眼を走らせた。
「すぐ車で出たとすれば、だいたいあと七、八分でここに着きます。不意だとお困りになるのではないかと思って、お知らせにあがったようなわけですが」
 ひどく持って廻ったようなことをいうが、久美子の聞きたいのはそんなことではなかっ
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