《どじょう》をつけておびきよせましてね、その場で手術刀《メス》で処理してしまうんです。中支ではよくやりましたよ」
そんなことをいいつつ尻はしょりをして出かけて行ったが、なかなか帰ってこない。
きのう田阪の女中が来て、誰かあひるを殺して藪の中におしこんでありましたんですがもしお気持がわるくありませんでしたらといって、大きな手羽《てば》をひとつ置いて行った。きのう誰かにやられ、きょうまた石亭にしめられたのでは田阪のあひるも楽じゃないなどとかんがえているところへ、石亭がへんにぶらりとしたようすで帰ってきて、手に握っていたものを縁の端へ置いた。髪毛《かみのけ》が毬《まり》のようにくぐまった無気味なものである。
「それはなんだね」
「こんなものがあひるの胃袋から出てきたんです。まあ、見ていてごらんなさい」
石亭はひきつったような笑いかたをするともさもさを指でかいさぐって小さな翡翠《ひすい》の耳飾をつまみだした。
「これはヒサ子の耳飾ですから、髪毛もたぶんヒサ子のでしょう。継母がヒサ子を殺して池へ沈めたのを、あひるが突つきちらしてこれが胃の中に残ったというわけです」
「えらいことをいいだした
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