昆虫図
久生十蘭
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)一切《いっさい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)死体|蛋白《たんぱく》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](〈ユーモアクラブ〉昭和十四年八月号発表)
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伴団六は、青木と同じく、大して才能のなさそうな貧乏画かきで、地続きの古ぼけたアトリエに、年増くさい女と二人で住んでいた。
青木がその裏へ越して以来の、極く最近のつきあいで、もと薬剤師だったというほか、くわしいことは一切《いっさい》知らなかった。
職人か寄席芸人かといったように髪を角刈《かくがり》にし、額を叩いたり眼を剥《む》いて見せたり、ひとを小馬鹿にした、どうにも手に負えないようなところがあって、これが、最初、青木の興味をひいたのである。
細君のほうは、ひどく面長な、明治時代の女官のような時代おくれな顔をした、日蔭の花のような陰気くさい女で、蒼ざめたこめかみに紅梅色の頭痛膏を貼り、しょっちゅう額をおさえてうつ向いていた。吉原にいたことがあるという噂だった。
どういういきさつがあ
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