い出を忘れさせようと、いろいろに慰めている……〉
葵の想像がそこに行きつくと、彼女はなぜかひどく感傷的になって悲哀とも感激ともつかぬ涙をながすのだった。
〈……あたしを東京からひき離して、こんなところへ押し隠すようにしておくのは、すると、あたしを検挙の手から逃避させるためなのだ。台湾へ行くといったのも、じつは公用でなく、あたしをそこまで逃がすつもりだったのだ。こうするためには彼は地位さえも抛つ気かもしれない。もしそうなら、……こんな無益な犠牲と努力をやめさせなくてはならない……〉
しかし、またもうすこし考えすすめると、必ずしも葵のためにやっているとばかし思われない節もあるのである。
久我の過去についても、葵はなにも知らなかった。高等刑事だということと、その以前は詩人であったということのほか、ほとんどなにも教えられていなかった。しかも、彼が警察官だとするとその行動はまったく腑に落ちないところがあった。
東京を出発するときは公用で台湾まで行くといい、途中で上海に変更されたといい、神戸へつくと、すこし重大な事件が起きたからここですこし活動しなくてはならない、という。そのくせ、電報をう
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