我と葵は結婚した。
絲満南風太郎の殺人事件は、はしなくも、とうとう一組の幸福な夫婦をつくることになった。
二人ながら両親がなく、親戚というものもこの東京に持っていないので、披露式の祝いの席に連なるものは、いきおい、あの朝、〈那覇〉で逢った連中のそれ以外ではなかった。西貝計三、乾老人、……それに、若い新聞記者の那須が一枚それに加わった。新宿の、〈天作〉という小料理店の離れ座敷だった。
西貝と那須は、大理石の置時計を贈って、大いにきばったところを見せた。
乾は大きな地球儀を贈った。これで、どうしろというのだ。……その詮議は、どうでもいいとして……
西貝が、立ちあがって祝辞をのべた。人差指で、鼻の孔をほじりながら、
「……要するに、結婚の功利的方法というのは、一日も早くガキを産んで、自分らの責任を、全部ガキどもになすりつけてしまうことなんだ。七つになったら、どんどん尻をひっぱたいて、小銭を稼がせろ。……いくら出来の悪いガキでも、(歌わせてよ)位はやれるからな。……偶※[#二の字点、1−2−22]、出来のいいのをヒリ出したら、じつにその効用計りしるべからず。……すえは芸者かネ、花魁《
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