はねえのだが。……(首をかしげながら)じゃ、おやじが知ってるかも知れねえな。……おい、鶴さん。おやじはまだ寝てるのか。……ふうん。……じゃ、すまねえが、ちょっと起してきてくんな。子之がききてえことがあるってヨ。大至急な用なんだからよウ」
「大将はまだ夜中だぜえ、子之さん。それに、ゆんべは……(と、いいかけて、急に二階のほうへきき耳をたてると)おう、だれか二階をあるいてら……。へ、へ、大将が正午まえに起きたためしはありゃしまいし、して見ると、……(酒鼻のほうへにやりと下素《げす》っぽく笑って見せ、子之に)起すのはよしなよ、殺生だぜ、女《テキ》がきている」
と、小指をだしてみせた。
二十日鼠がついと立ち上った。が、それは帰るのではなくて、
「甚だつかぬことをお訊ねするのですが、みなさん、ひょっとしたらあなたがたも、わたくしと同様、未知の男から手紙をもらって、それで、……その、誰れかわからん人間をここで待っておられるのではないのですかな。たいへん失礼ですが……」
二十日鼠がこういうと、ほかの四人の顔にさっと血の色がさして、たがいに狼狽したように眼を見あわせた。
「……じつは昨日、わたく
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