は始めてでしょう。……私はひとを待っているんですが、どうもたいへんなところ……」
「始めてです」
 にべもない返事だった。酒鼻はいまいましそうに、男《ボーイ》のほうへ向きなおると、
「オイ、ときに、ここのマダムはどうした」
 と声をかけた。男《ボーイ》はせせら笑って、
「マダム? ……大将ならまだ二階で寝てまさ。……昨夜すこしウタイすぎたんでねえ」
「喧嘩か」
「なあに、……昨夜妙な女がひとり飛びこんできてねえ……なにしろ大将はスキだから、いきなりそいつとツルんでだいぶんひっかぶったらしいんでさ。……もっとも、あっしゃ昨日は昼番、その時はいなかったが、いっしょう浴びたテアイのはなしでは、なにしろ女《テキ》あ大した豪傑で、……お相手しましょう、てな調子で割りこんでくると、あとはもう、奴、酌げ酌げ、さ。……さすがの大将も、しまいにはオッペケペになって、とうとう兜をぬいじまったんだそうだ。……あっしゃ、すらっとした後ろ姿を拝見しただけだったが、連中の話じゃ、二十三四のモダン・ガールで、こいつがどうもやけにいい女だったそうでさア。……なんでも洲崎のバアの女給だってえこったが、いってえどういうん
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