をうけた。参考人としてではなく、殺人嫌疑で訊問されていたのだった。警察では殺人の前夜に〈那覇〉へ現れた女も、古田子之作へ遺産相続通知の電話をかけた女も葵だときめてかかっているのだった。
〈那覇〉の男が、どうもこの女ではありません、と証言し、葵にもたしかな不在証明があったのでこのほうの嫌疑だけはまぬかれたが、電話のほうは、古田が、こんなによく響く声ではなかった、と、明瞭に申し立てているのに、どうしても納得しないのだった。最後には、二人で共謀してやったんだろうなどと言い出した。こうなれば、弁明するだけ無駄のようなものだった。
殊に、葵には、過去の経歴のうちに、明白にしたくない部分があったので、いきおい、答弁は曖昧にならざるを得なかった。係官は、そこへのしかかってきた。
葵は、電話をかけたのは私ではない、というほか、どう言う術も知らなかった。しまいには、言うことがなくなって黙ってしまう。すると、いままで温顔をもって接していた司法主任は、急に眼をいからせ、顔じゅうを口にして、なめるな、この女《あま》と、大喝するのだった。
二日目の昼には、強制的に検黴された。もし病毒でももっていたら、その
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