、乾はのっそりと鶴のほうへ近づいて行った。二人は鶏でも追いこむような恰好に両手をひろげ、左右から鶴をじりじりと壁のほうへ追いつめて行った。
どこかで虫が鳴いている。
だいぶ更けたらしく、あたりはしんとしずまりかえっていた。うす暗い電気の下で、乾とハナがせっせと床をこすっていた。蘇芳《すおう》をまきちらしたようなおびただしい血のあとを、たわしに灰をつけて、ひっそりと洗いつづけるのだった……
ちょうどその頃、葵は監房の窓から秋の夜空を眺めていた。
葵はたったいま調室からかえされたところだった。久我はもう死んでしまった。かくすこともおそれることもない。訊問されるままに、あたしに〈遺産相続〉を通知したのは久我の声でした。と自白した。自分が大名華族の和泉家の長女であることも自発的に申したてた。
久我はもう空にのぼって、あたしを見つめていてくれるのであろう。久我は決して遠いところにいるのではない。永劫のかたちでいまもあたしを抱擁していてくれるのだ。
思えばはかない縁だった。はじめて久我と逢ってからまだ四月にも足らないのに、ひとりはもう空へかえり、ひとりは汚濁《おじょく》雑爼《ざっそ
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