のだった。そして、愛もなく結婚した。結婚するのに愛情なんか必要ではないと考えていたのである。しかし、いまは違う。長い間刻苦して鍛えあげた自我的な精神も自由もすてて甘んじて平凡な家庭のひとになり切ろうとしている。彼女のためならどんなことでもやってのけようと身構えている。これが愛情というものなのか。久我にとってはじつに驚くべきことだった。こんな変異が自分のうちに起きようとはただの一度も考えたことはなかった。
久我は葵の手をとりあげてそっと唇をふれた。葵がぱっちりと眼をあけた。
「あたし、眠ってしまったのね。……もう出かけなくてはならないの? ……もうすこしこうしていたいんだけど……」
「いいとも。……いいころに起してやる。……葵、僕がいまなにを考えていたか知ってるか?」
葵はうっすらと眼をとじると、夢からさめきらないひとのような声で、こたえた。
「あたしのこと……」
久我が声をたてて笑った。
すぐ間近で鋭い呼子の音がした。
見あげるような五人の大男が、つぎつぎに霧の中から現れて、半円をつくりながらジリジリと二人のほうへつめよった。
久我の上衣の衣嚢《ポケット》から一道の火光が迸
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