っきりときこえる。
二十日鼠は背中を丸くして、歯の間から荒い呼吸をしていた。草笛のように甲高くヒュウヒュウ鳴る音は、血の滴る陰気な音と交りあって、ひとの気持ちをいらいらさせた。
娘は青年の方をふりかえると、溺れかかるような眼つきをした。青年は急いで娘の傍へよると、腕のなかへ抱えた。娘は蒼ざめた額をおさえながら、夢のさめきらないひとのような声で、どうぞ……階下へ……と、いった。
その声で巡査がふりかえる。五人を見ると、はじめて気がついたように、男《ボーイ》にきいた。
「この連中はなんだね」
「店のお客です。始めてのひとばかりなんで……」
「ふうん。……さ、みんな、おりた、おりた。帰らずに階下で待っていろ。……もうここへあがって来ることはならんぞ」
巡査はみなを階下へ追いおろすと、あたふたと街路へ出て行った。
自動車がとまり、警部の一行がはいって来て二階へあがって行った。一人の巡査は、こらこら、と言って店先の弥次馬を追いはじめる。
検証は四十分近くもかかった。警部は低い声で二人の部長とささやきながら降りて来た。酒場の卓の前へ坐ると、じろじろと五人の顔を見廻した。手帖を出しながら
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