転回して見ると、危険はそれらの条件にあるのではなくて、どうしても橋を渡らなければならないという観念から離れられないところにあるのだ。服をぬいでそこの溜堀へ沈めた。そろそろと堀を泳ぎ渡って、弁天町の貸船屋の近所へあがった。そこに腐ったような袢纒がかけ流してある。麻裏もある。そいつを引っかけて突っ立っていたらタキシが寄ってきた。ホテルへ帰って見ると、予期したようにみながまだ騒いでいて……」
山瀬が、むっつりと口をはさんだ。
「しかし、そんなことを俺がきいても仕様がないな。……いったい、君が話したいということはなんだ」
ちょっと間をおいて、
「じつは絲満をやったのは僕の妻《フラウ》なんだ」
山瀬は、まるで聞いていなかったように、冷然と空を眺めていた。久我はすこし早口になって、
「つぎの朝、巡査といっしょに二階へ上って行った。ふと見ると、血だまりのなかに女の服の釦が落ちている。しまったと思った。隙を見て拾ってポケットへ入れた。しかし、しらべて見ると、僕の服の地色とちがう。……葵の服にそれとよく似た色のものがある。そっとあてがって見たら、まぎれもなくその服から落ちたものだということがわかっ
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