なかった。すこし厳格すぎる警察官のひとりに過ぎなかったのである。葵にはすこし放埓にも見えた彼は、じっと銀行ギャング事件の犯人をつかまえるために、目に見えぬ活動をつづけていたのだった。
 疑惑のない心の状態とはこんなにも快活なものであろうか。……葵は紗のカーテンをいっぱいにおしあけると、晴ればれとした声で唄いだしてしまった。

 雨雲が破れて、そのあいだに新月が黄色く光っていた。久我は、栄町通りでタキシを拾うと、すこしドライブをしたいのだから、どこでもかまわず走ってくれ、と運転手に命じた。自動車はかなり速いスピードで、阪神国道のほうへ走りはじめた。自動車が走りだすと、陽やけした、軍人のような厳い顔をほころばせながら、山瀬が、いった。
「……お目でとう。結婚したそうだね。……それで、お嫁さんはどんなひとか」
「美人だよ。……だが、内面的にすこし暗いところがある。……なにかそういう風にさせるものが過去にあったのだろう。……要するに薄命的な性格なんだね。どうも、そんなものを感じさせる」
「なるほど。……だが、敏腕だったね。逢ってから二十日位で結婚したんだそうじゃないか」
「いや、十五日だよ」

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