なことを考えているか、だいたい僕にはわかってるさ。……(天井をながめながら)たとえば、君はこんな風にかんがえる。……僕の行動が警察官にふさわしくない、なんてね」
度を失って、葵は口ごもった。
「……そんな」
「うそじゃない。そう考えるほうが至当なんだ。さもなけりゃ薄情さ。……君が疑問に悩まされているのを、だまって見すごしているのは、友人としても亭主としてもあまりほめた態度じゃない。……しかし、われわれの職業にはひとつの倫理的な掟がある。……黙秘すべきものを守る。……責任感とか義務とか、そんな観念的なものでなくて、もっと高い……たとえば良心というような。……だから、これを冒すと非常にこころが痛むんだね。……古風だと思うかも知れないが、僕がそういう掟に誓っている以上、君もやはりそれを認めてくれなくてはいけない。……僕の行動をいちいち君にうち明けなくとも、まさか愛情の点で、どうのこうのと考えやしまい……」
「よくわかってますわ。……いままでだって、お仕事のことをおたずねしたおぼえはなくてよ」
久我は微笑しながら、
「そうさ。君は質問しない。……だけど、君の眼はいつもききたがっている」
前へ
次へ
全187ページ中103ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング