あなたが帰られるまでのほんのいち二日をかわし、つぎの定期で花子をつれて北海道へ飛ぼうと花子をかくすてだてをいろいろかんがえました。なにしろ、この寒さではそとに隠しきれるものではありません。商売商売で、けっきょく膃肭獣の中へかくすことを思いつき、さっそくその仕度にかかりました。もちろん花子にはなにもうちあけず、郷土《くに》の手みやげにする皮だともうしておきました。どこから見ても見あらわされぬよう念をいれて剥製にし、裏側にはじゅうぶんに鋳掛けをし、コロジウムでくされをとめたうえ、石膏末ですべすべにし、ちょうどうす皮の上等の手袋のように仕上げてあなたの船がつくのをまっておりました。いよいよその日がきて、沖で汽笛がきこえましたので、わしはそこではじめて花子にはらをあかしさまざまいんがをふくめますと、花子もようやくわしのこころがわかり、膃肭獣の中にはいることをしょうちしました。あなたが小屋に来られたとき、わしがおりませんでしたのは、あのとき薪小屋の中で綿のつめものをしてかたちをこしらえたり、口あきを縫い合わしたり、いっしんにやっていたのでした。それにしても、ただの一日か二日のこととたかをくくって
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