わけはありません。いちぶしじゅうをさっして小屋でふるえておりました。はじめのうちはおそろしがってそばにもよせつけませんでしたが、そのうちにわしのこころがつうじたとみえ、だんだんうちとけてきましてみょうりにつきるほどやさしくいたし、とうとうふうふになって、この島でたった二人きりで二羽のインコのように仲よくくらしていたのであります。ところで、そのうちに私のくずれはだんだんひどくなり、髪も眉もぬけ、歯ぐきがくさってそこからくさい血がながれだし、かくごしたこととはいいながら、われながらあさましいなりになりました。娘《あま》ッ子というものはほんとうにがんぜないもので、こうなるとこわがってよりつかず、いま、あなたがいられまする土間にひっこもってぼんやり窓からそとばかりながめるようになりました。なんとかしてわしから逃げだしたいとかんがえていることは、そぶりにもさっしられるのでありますが、そうしているうちにあなたがこの島へおいでになる日がおいおいにちかづいてまいります。もし花子をあなたに引きあわしたら、花子はいっけんをバラし、わしから逃げる手段にするだろうということがさっしられましたので、なんとかして
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