したが、これも同じようにやっつけ、清水さんを最後にして、ひるごろまでにみなぶち撲ってしまいました。わしはただ花子をもませまいとして監獄にゆくかくごでやりだしたことだったのでありますが、こうしてみなが寝くたばっているのをみると、きゅうに欲がでて、なんとかして罪をのがれ、帯広へでも行って花子とくらしたいというような気になり、いろいろかんがえたすえ、みなの死がいをボイラー室へひきずりこみ、米や味噌や野菜《あおもの》を花子のぶんだけすこし引きだし、むやみに石炭をどしこんで食料倉もろとも乾燥室をぶっとばしてしまいました。なぜわしのぶんも米や青物をとっておかなかったかともうしますと、ことしの三がつの十日にあなたが見廻りにこられることがわかっていましたから、それまでにぜひとも壊血病《くずれ》になるつもりで、死《お》ちた海鴨とロッペンの卵のほかは喰うまいとかくごをきめたのでございます。こんなふうにしたら、よもやわしがみなをやっつけたなぞとあやしまれることもあるまいとかんがえたからでございました。なにしろ[#「なにしろ」は底本では「なしにろ」]こんな小さな島のことでありますから、このさわぎを花子が知らぬ
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