うにおとなしく、花子がかくべつ喰べたいともいわぬのに、夜なべをかけて釣に出るわ、華魁《おいらん》鴨をうつわ、雪のしたから浜菜や藜《あかざ》をほってくる、ロッペンの卵をあつめる。どんなうつくしい大家のおじょうさまでもこの島で花子がされたほどもてはやされることはよもありますまい。こんなふうにして、その年もつまり、ちょうど大晦日の夜のことでありました。夕方から年とりの酒もりをはじめましたが、すえにはみんなへべれけになって地金をだし、四方八方から花子にすけべえなじょうだんをいいかけ、近藤などは花子の手をとって寝にいこうなどともうします。わたしははじめから花子をあがめまつり、にくしんの妹のごとくにもちんちょうしておったのでありますが、こういうあんばいを見てはとてもかんべんがなりませず、いきなり突立って、花子はきょうからおれのものにするからくやしかったらどいつでもやってきやがれとたんかをきりました。ひごろ皮剥の、ももんじいのと馬鹿にされとおしていたうらみもてつだって、みなのやつらを前においていいたいほうだいなごたくをならべてやったのであります。すると荒木はごうせいに腹をたて、酒のいきおいもありまし
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