それは荒木の姪で山中はなともうしました。としは十八で、こころもちのいいそのくせちょっとひょうきんなところもあるむすめでした。十一がつのなかごろの定期でおじをたずねて敷香からこの島へやってまいりました。もちろんこの島で越年するつもりなどはなく、すぐつぎの船でかえるはずだったのですが、時化でさいごの定期がこず、いやおうなしに島にとまることになったのであります。たとえてもうしますなら、この岩ばかりの島にとつぜんうつくしい花がさきだしたようなものでありました。荒木はともかく、わしどもにはただもうまぶしくてうかつにそばへもよってゆけぬようなありさまだったのであります。花子はさっぱりしたわけへだてをしないむすめでありまして、たれにもおなじようにからみついたりじょうだんをいったり、そればかりか手まめにシャツのほころびをぬってくれたり、髪をかきあげたりしてくれまする。鬼のような島のやつらも、たれもかれもみな見ちがえるように奇麗になって、たがいに顔をみあわせてはあっ気にとられるのでありました。らんぼうばかりいたして手のつけられぬいんだら[#「いんだら」に傍点]なやつらも、花子のまえへでると小犬のよ
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