にそれを蔽い隠し、姿をあらわしたときとおなじように、漠々たる乳白色のなかへ沈んでしまった。
一、ひと眼その島を見るなり、私はなんともつかぬ深い憂愁の情にとらえられた。心は重く沈み、孤独の感じがつよく胸をしめつけた。唐突な憂愁はなにによってひき起されたのだろう。陰鬱な島の風景が心を傷ませたのだと思うほかはない。さもなくば、予感といったようなものだったのかも知れない。それは悲哀と不安と絶望にみちた、とらえどころのない情緒だった。
私は舷側に凭れ、島が幻のように消え失せたあたりを眺めていたが、精神の沈滞はいよいよ深まるばかりで、なにをするのも懶《ものう》くなった。この年は、例年になく寒気がきびしかったので、海氷の成長がいちじるしく、氷原の縁辺から海岸までは四浬以上もあり、島に行くには、橇か、徒歩によるほかない。この厄介な事情が、いっそう憂鬱をつのらせた。島の査察は重大な仕事だったが、さまざまに迷ったすえ、部下の技手に事務を代行させることに肚をきめ、正午近く、米、野菜、その他、若干の食糧を積んだ橇とともに島へ出発させた。
一、部下の復命を得次第、※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]
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