サガレンや沿海州を流れ歩き、砂金掘りや官林盗伐に従事していた無法粗雑な男どもで、看視員が島を引きあげると、たちまち本性をあらわし、仕事などはそっちのけに朝から飲酒と賭博にふけり、泥酔したあげく、かならず血みどろ騒ぎになるのだった。
 技手の清水は、島の秩序を保つために酒樽の入っている倉庫に錠をおろし、銃器をとりまとめて看視員小屋に立て籠ったが、てもなく小屋からひきずりだされ、息の根のとまるほど胴上げをされた。技手を毛布の上に乗せ、四人の暴漢が四つ隅を持ち、毬のように高く放りあげては受けとめる。技手は逆さになったり斜になったり、両足をばたばたさせたり、息をつく暇もないほど、いそがしく空と毛布の間を行きかえりした。最初の間はかん高い悲鳴をあげていたが、しまいには呻き声も出さなくなった。劇動のために内臓がクタクタになり、息もしなくなったのを、泥酔した四人の暴漢は笑いながらいつまでも残酷な遊戯をつづけた。血を吐いただけで、殺されるところまでは行かなかったが、半月ほど床についたきり動けなかったといい、立ち上がって眼に見えるようにその光景を演じて見せたすえ、腹をかかえてとめどもなく笑った。そのうち
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