んでいた。思わず床几から飛びあがろうとしたほど兇悪無惨な眼つきであった。
 私が振りかえったのを見ると、狭山は急に眼を伏せ、いかにもわざとらしい慇懃さで、「薬罐はストーブの横にある」といいながらクルリと向うをむいてしまった。歯軋りする音がきこえた。
 狭山にたいする高圧的な態度は、ひっきょう虚勢にすぎないのだが、狭山の感情を刺戟したのは失敗だった、なんとかして怒りを緩和しようと考え、背嚢から口を開けたばかりのウイスキーの角瓶をだし、
「そんなところにひっこんでいないで、こっちへ出てきてひと口やれ」というと、狭山は、渋々、寝台から離れ、向きあう床几にやってきた。
 狭山は咽喉を鳴らして流しこむようにウイスキーをあおっていたが、追々、病的な上機嫌になり、高笑いをしながら、火災の前後の顛末や残留以来の島の出来事を、連絡もなくしゃべりだした。
 狭山の話を綜合すると、あの災厄があるまで、この島で比類のない無頼放縦な生活がつづけられていたのである。四人の大工土工は撰りぬきのあぶれものぞろいで、土工の荒木と近藤は殺人未遂傷害の罪で、網走監獄で七年の懲治を受けた無智狂暴な人間であり、他の二名の大工は
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