うな妙に響のある声で、いつまでこの島にいるつもりかという意味のことをたずねた。私は、明後日、船が自分を迎えにくるまでこの島にいるとこたえ、愛想のつもりで、
「それだって、どうなるかわかったもんじゃない。船が途中で難船でもしたら、雪解けのころまでここにいるよりしようがないのだからな」というと狭山は瞬かぬ眼でじっとこちらを凝視していた。私のような地位のものが、伴もつれずに一人でこんな島へ残ったということが、なんとしても腑に落ちぬ体《てい》だった。
 一、島の椿事はこんな風にして起った。
 年越しの晩以来、島の一同は乾燥室に入りびたっていた。その日も夕方から酒盛りになり、間もなく酔いつぶれてしまったが、大晦日の晩にはじまって、三ヵ日の間、飲みつづけだったので、みな正体を失い、過熱された乾燥室のボイラーが、徐々に爆発点に達しようとしていることに気のつくものもなかった。
 噴火のようなありさまで、一瞬にして、人間も乾燥室もふっ飛んでしまった。人間どもは火山弾のように空中に投げあげられ、間もなく燃えさかる炎の中に落ちてきた。熱湯で茹られたうえ、念入りにもう一度焼かれたのである。恐らく眼をさます暇な
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