のおもて一杯に目白おしになって動きまわるンで、ちょうど梁ぜんたいが揺れているよう。……なにをしているんだと思ってよく見てみますと、そこに釘づけになってるのはたぶんそいつの親なんでしょう、その夥《おびただ》しい子守宮が、てんでにありまき[#「ありまき」に傍点]の子や蛆をせっせと運んでくる。米粒ほどの蠅の蛆をくわえて親の守宮の口もとへ差しつけると、もう二年も前に釘づけになったその守宮が、まっ赤な口をあけてパクッとそれを受けるンです。守宮は精の強いもんだということは聞いていますが、それを見たときは、あまりの凄さにあっしは生きた気もなくなり転がるように天井裏から跳ねだし、どこをどうして辿ったのかほとんど夢中でじぶんの家に飛んで帰り、それから三日というものはたいへんな熱。四日目になってようやく人心地がつきましたが、いくらなんでもあまり臆病なようで、居間の天井でしかじかこういうものを見て夢中になって逃げて帰ったとア言えない。それから二日ほどたってから阿波屋へ出かけて行きまして、なに食わぬ顔で、格別、なんのことはなかった、でおさめてしまったんです。……ところが」
またグッタリと首を投げだして、
「
前へ
次へ
全28ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング