あいに順々に検べ、最後に押入れの天井板を剥がして天井裏へあがって行きました。すると……」
「すると?」
「えらいものを見ました」
「どうした、急に顔色を変えて。……なにか怖いものでも見たのか」
 あふッ、と息を嚥んで、
「……ちょうど八畳の居間のまうえあたりに梁が一本いっていて、それに垂木が合掌にぶっちがっているところに、六寸ばかりの守宮が五寸釘で胴のまんなかをぶっ通され梁のおもてに釘づけになっているンです。垂木の留《とめ》を打つとき、はずみでそんなことになったんだろうと思いますが、そうしようと思っても、こうまでうまくはゆかなかろうと思われるくらい、見事に胴のまんなかを……」
「それがどうしたというんだ」
 ひ、ひ、と泣ッ面になって、
「いくら臆病なあっしでも、それだけなら、かくべつ、びっくりもしゃっくりもしねンですが、なに気なく糸蝋燭《いとろうそく》のあかりをそのほうへ差しつけて見ますと、思わず、わッと音をあげてしまった。……見ますとね、どこからやって来るのか、なん千なん百という一寸ばかりの守宮の子が梁の上をチョロチョロチョロチョロと動きまわっている。蚯蚓《めめず》ほどの守宮の子が梁
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