までは北番所の帳面繰り。ひょんなことで阿波屋の六人を手にかけ、退っぴきならないことになりましたが、以前のよしみで、なんとかひとつお目こぼし、……なんてえ話なら聴くわけにはいかない。なるほど俺は酔狂だが、下手人の味方はしねえのだ」
清五郎は、額にビッショリと汗をかいて、
「まあ、待ってください。どのみち逃れぬところと観念しておりますが、こんなところで思いがけなくお目にかかったのをさいわい、せめて道すじだけでも聴いていただきたいと思いまして……」
顎十郎はマジマジと清五郎の顔を眺めてから、
「それで、いったいどんなぐあいに殺《や》った」
「どんなふうに殺したとたずねられても困るんでございますが、しかし、直接手は下さなくともあっしが殺したも同然なんで……」
「口の中でブツブツ言っていないではっきり言ってみろ」
清五郎は、ほッとうなずいて、
「……ことの起りは守宮《やもり》なんでございます」
「守宮……、守宮がどうしたというんだ」
「いきなり守宮とばかり申しあげてもおわかりになりますまい。いま、くわしく申しあげますから、ひと通りお聴きとりねがいます」
と言って、顫える手で濁酒の茶碗をと
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