を見ると、足の下のくさむらの中に一疋の大きな蝮蛇《まむし》。青黝《あおぐろ》い背を光らせながらサラサラと草を押しわけてそばに積んである油壺の中へニョロリと入ってしまった。
アコ長はありあう木ぎれでピッタリと油壺の蓋をふさぐと、
「ひょろ松、わかった。阿波屋の六人のかたきは、この蝮蛇だったんだ。……これは、阿波に棲んでいるくろはみ[#「くろはみ」に傍点]という蝮蛇で、江戸にはいないやつ。油壺をつつむ筵の中へでもまぎれこんでここまで来たものにちがいない。……これであの赤痣の謎もとける。……蝮蛇がひとを咬むのは八十八夜から十月の中ごろまで。阿波屋の人死もちょうどそのあいだ。なぜそこに気がつかなかったのか」
と言って、蔵の壁に喰いついて顫えているお節の肩へ手をかけ、
「お節さん、蝮蛇に咬まれなすったか」
お節は首を振って、
「いいえ、大丈夫」
「それはよかった。……これで新田さんの病いのもともわかったから、きっと助けてあげます、あなたはこの蠑※[#「虫+原」、第3水準1−91−60]を堀の水へかえして、早く咒いをといて来なさい」
底本:「久生十蘭全集 4[#「4」はローマ数字、1−
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