ところあっしの罪。手こそくださないが阿波屋の六人はあっしが殺したも同然。……そう思うと、あっしはもういても立っても。……どうか、お察しなすってくださいまし」
屋根裏
深川の油堀《あぶらぼり》。
裏川岸にそってズッと油蔵が建ちならんでいる。壁の破れにペンペン草が生え、蔵に寄せて積みあげた油壺や油甕のあいだで蟋蟀が鳴いている。昼でもひと気のない妙に陰気な川岸。
もう暮れかけて、ときどきサーッと時雨《しぐ》れてくる。むこう岸はボーッと雨に煙り、折からいっぱいの上潮で、柳の枝の先がずっぷり水に浸《つ》かり、手長蝦だの舟虫がピチャピチャと川面《かわも》で跳ねる。……ちょうど逢魔ガとき。
油蔵の庇あわいになった薄暗い狭いところを通って行くと、古びた黒板塀に行きあたった。
清五郎は裏木戸の桟に手をかけながら、
「ここから入ります。……母家《おもや》はお通夜でごった返して離家には誰もいないはずですが、それだと言ったって、だんまりで座敷へ踏みこむわけにもゆきません。屋根の破風《はふ》の下見《したみ》をすこしばかり毀しますから、窮屈でもどうかそこからお入りなすってください」
泉水の縁
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