んでなど来たら、そばに寄せぬうちに拙者がひとひねりにしてしまいます、安心していまっせ」
 これで、だいたい、段取りがきまったので、ひょろ松は近江屋のところへ行って打ちあわせをし、これでいいということになってお渡御が始まるのを待つ。
 そもそも暗闇祭というのは神霊の降臨は、深夜、黎明が発する直前にあるという古礼によるもので、有名なものでは、遠江見附《とおとおみみつけ》町の矢奈比売《やなひめ》天神の闇祭とこの武蔵府中の六所明神の真闇祭《しんやみまつり》。
 この社は武蔵|大国魂神《おおくにたまがみ》を祀ったもので、そのほかに、東西の六座に、秩父、杉山、氷川などの武蔵国内の諸神を奉斎《ほうさい》する由緒のある宮。
 例祭は五月五日で、前祭として五月二日にお鏡磨《かがみとぎ》祭、同三日には競馬《くらべうま》祭、同四日に御綱《おつな》祭がある。
 やがて子の刻間近くなると、道清《みちきよめ》の儀といって、御食《みけ》、幣帛《みてぐら》を奉り、禰宜《ねぎ》が腰鼓《ようこ》羯鼓《かっこ》笏拍手《さくほうし》をうち、浄衣を着た巫《かんなぎ》二人が榊葉《さかきは》を持って神楽《かぐら》を奏し、太刀を佩《
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