主も一枚くわわって、注げ注げ、奴《やっこ》、で、一緒になって唄うやら騒ぐやら大乱痴気《おおらんちき》。
さっきの年嵩の中間、冗《くど》くなる酒だとみえ、飯台に片肱を立てながら、
「なア、六平、ここにいるこの五人。それから、すこしお長えのと髯もじゃのふたりのお仲間さん。こうして一杯の酒も呑みあったからにゃア、血をわけた兄弟も同然、そうだろう、六平」
「そうだとも、そうだとも。芳太郎、お前のいう通りだ。まア、一杯飲め」
「おう、その盃を俺にくれるというのか。ありがてえね。……ありがた山のほととぎす、と、いいてえところだが、その盃は貰わねえよ」
「くだらねえことを言わねえで、まア飲め。……それとも、俺のさした盃が気に入らねえというのか」
「ああ、気に入らねえね、気に入りませんよ。手前のような水くせえ野郎の盃は死んだって受けてやらねえんだ」
「また始めやがった。手前は酔うとくどくなる。いってえ、なにが気に入らねんだい」
芳太郎という中間は、いよいよ辰巳上《たつみあが》りになって、
「聞きたきゃ聞かせてやろう。曰《いわ》く因縁《いんねん》故事《こじ》来歴《らいれき》。友達がいに、ここへズラズ
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