こちらへ。こちらへ」
中間や陸尺やらが五人。欅《けやき》のまあたらしい飯台《はんだい》をとりまいて徳利をはや三十本。小鉢やら丼やら、ところも狭《せ》におきならべ、無闇に景気をつけている。
アコ長は、そちらへ愛想笑いをしながら、
「ねえ、とど助さん、みさんが[#「みさんが」はママ]ああおっしゃってるから、お辞儀なしにあっちへ移ろうじゃありませんか」
「いかにも、これもなにかの因縁。大慶至極《たいけいしごく》でござる。そういうご趣向なら、いっそ表戸をしめてしまって、朝までとっくりとやってはいかがなもんでしょう」
「いよう、軍師、軍師!」
「それがいい、それがいい」
さっきの冗《くど》いやつが先に立ってバタバタと表戸をしめてしまう。
さあ、これで邪魔が入らないとばかりに、中間や陸尺のあいだへ割りこんで、たちまち差しつ押えつ、ふたりとも引きぬきになって湯呑で大兜《おおかぶと》。
「さア、ドシコと注ぎまッせ、そんなことでは手ぬるい手ぬるい」
アコ長も、負けず劣らず、
「ご亭主、ご亭主。継立《つぎた》て継立て、銚子のかわりを三枚肩《さんまい》でお願いしやす」
たまらなくなったと見え、亭
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