ろで、こうやって飯台のうえを眺めてるうちに、ここへやって来て六人を殺したのはいったい誰だったか、はっきりとわかったんです」
「えッ、飯台を眺めて、……やって来たやつは誰かと……」
「ご所望《しょもう》なら名前までいうことが出来ます。……加代姫が帰ったあとでここへやって来ましたのはね、和泉守の小小姓で三枝数馬という男です。……こいつは、加代姫にちょっとよくないことをしたんで、六平たちに簀巻《すま》きにされて皀莢河岸に沈められた。六平のほうじゃ死んだと思っていたんだが、濠の中で簀がとけて数馬はいのちが助かった。六平がここへ新店を出したという話をきき、怨みのとけたような顔をしてやって来て、じぶんを放りこんだ六人をもろともに毒殺してしまったというわけなんです」
「お話は、よくわかりました。それで、その証拠は」
「あたしがここへ入ると、あなたと話をしながら飯台のほうばかり眺めていましたろう。いったい、なにをしていたと思います。ひい、ふう、みいと、盃の数ばかり数えていたんです。たぶんひょろ松からお聞きになったことでしょうが、昨夜、あたしととど助がここにいたんです。……あたしととど助と六平、それに中
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