間どもが五人。〆めて盃が八ツでなければならないのに、ごらんの通り、ちゃんと九ツあります。あたしは如才なく加代姫に念をおして見ましたが、加代姫は、ここで酒など呑んでいないのです。してみると、あたしの推察どおり、加代姫が帰ったあとで、別なだれかがやって来た。それが、濠へ沈められた三枝数馬だというんです。……その証拠ですか? 実に、簡単なことなんです。……いちばん手近な盃の下に懐紙を四つに折って盃台にしてあるでしょう。懐紙の紙はご覧のように、薄紅梅を刷りこんだお小姓紙。懐紙で盃をうけることは小姓でなければしないことです。……嘘だと思ったら、あの盃を改めてごらんなさい。あの盃だけには毒がはいってないはずですから……」



底本:「久生十蘭全集 4[#「4」はローマ数字、1−13−24]」三一書房
   1970(昭和45)年3月31日第1版第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年12月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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