だしたようなわけだったんですが、こりゃとんだ生命《いのち》びろいをしました」
 二人の話を聞いていたひょろ松が、怪訝な顔で、
「なにか耳よりな科白《せりふ》がまじるようですが、そりゃア、いったい、なんのお話です」
 顎十郎は、恍けた顔で、
「実はな、ひょろ松、われわれ二人もあぶなく毒流しにかかりかけた組なんだ」
 ひょろ松は、おどろいて、
「えッ、すると……」
「ああ、そうなんだ。あの六人とひっつるんで大騒ぎをやらかしているところへ人間を氷漬けにしたような凄味なのが入って来たんで、せっかくの酒がさめると思って、泡をくって逃げ出したんだ。……それはそうと、あの居酒屋へ加代姫が出むいて来たことがどうしてわかった」
「中間の芳太郎というのがこれが息の長いやつで、しゃっくりをしながら朝まで生残っていて、虫の鳴くような声で、大凡《おおよそ》のありようを喋ったんです」
「ふむ、芳太郎はまだ生きてるのか」
「南番所《みなみ》の出役があると、間もなく息を引きとりました」
「馬鹿な念を押すようだが、すると、亭主の六平ぐるみ、あの六人はひとりも助からなかったんだな」
「残らず死んでしまいました」
「なるほ
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