っている花婿の金三郎の手をとり、
「おい、梅花《ムイハア》、あんなものまで庭先へ立たせるようじゃ、なにもかもネタが割れた証拠。人間は切りあげが肝腎。このへんで尻ッ尾をまいて逃げだそうぜ。マゴマゴしていると手がまわる」
 木曽の親類だといって、金三郎の介添になっていた骨太なふたり。いきなり突ったちあがって袴をぬいで畳にたたきつけると、
「おい、親分、お蓮のいう通り、もうこのへんが見切りどき。そんなところへ根を生やしていねえでいさぎよくお立ちなせえ。……どうせ、おれらは海の賊。たとえ江戸一の金持であろうと、婿面をしておさまることはねえと、いくらとめたか知れねえのに、陸へあがったばっかりにこのだらしなさ。手のまわらねえうちに早く飛びだしましょう」
 金三郎は、袴の裾をまくって大あぐらをかき、
「唐天竺《からてんじく》まで荒しまわっても、一代では五十万両の金をつかめねえ。……廈門《アモイ》の居酒屋で問わず語らずの金三郎の身の上話。うまく持ちかけて盛り殺し、陜西《シェンシー》お蓮がお米と生写しなのをさいわいに四人がかりの大芝居。寧波《ニンパオ》のお時を小間使に化けさせ、まず邪魔な惣領のお梅を砒霜
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