右衛門の背中から離れていないんだから世話はねえ。せっかくの思いつきだったが、棺桶のほうは諦めるよりしょうがない」
「すると、いったい、どういう方法で……」
「と、言ったって、おれにはわからねえ……」
 と言って陽ざしを眺め、
「祝言のある夕方の六ツ半までには、あとわずか三刻《みとき》。盃のすまねえうちになんとか埓をあけなくちゃならねえンだから、こんなところでマゴマゴしちゃいられねえ。ともかく小塚っ原の投込場《なげこみば》へ行って八間堀へ浮いた首なし女の死体を験《あらた》めて見ることにしよう。……いくらなんでも茂森町から運び出したお米の首を斬って、つい目の先の堀へ投げこむほどのことはしなかろうとは思うが、しかし、なんとも言えない。万一、それがお米の死骸だったら、これこそ拾いもの」
「いかにもおっしゃる通り。今日からこちらの月番で存分なことが出来ますから、じゃ、これからすぐ……」
 千住まで駕籠をやとって飛ぶようにして小塚原。投込場同心に筋を通すと、下働きの非人が鍬をかついで非人溜りから出てきた。
 棺があるわけでもなければ筵でつつむわけでもない、草原のほどのいいところを浅く掘って投げこみ
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