《ひそう》の毒で気長に盛り殺し、怪談の『金鳳釵』を種本にこまごまと書きおろしたこのひと幕。木場の堀にゃア材木が浮いてるから、よもや死体が浮きあがるはずはあるめえと海のつもりで大ざっぱに放りこんだのがケチのつきはじめ。あわてて投込場から死体を盗んだのがまたいけない。こうヤキが廻ったからには、しょせん悪あがきをしてもそれは無駄。千仞の功を一簣《いっき》に欠いたが、明石《あかし》の浜の漁師の子が、五十万両の万和の養子の座にすわるとありゃアまずまず本望《ほんもう》。……逃《ふけ》るならお前らだけで逃てくれ。おれは、この座敷を動かねえんだ」
 と、座敷のまんなかにごろりと大の字に寝っころがった。
 安政の末ごろから、台州、福州を股にかけ沿岸の支那の漁村を荒らしまわっていた梅花の新吉の一味。親類づらをした二人は、老大《ラオタア》の権六、忘八《ワンパ》の猪太郎という海賊船の船頭だった。



底本:「久生十蘭全集 4[#「4」はローマ数字、1−13−24]」三一書房
   1970(昭和45)年3月31日第1版第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年12月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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