した。畜生、どこへ行きやがった」
とど助は、頭を掻きかき、
「ひょろ松どん、悪く思ってくださんな。あんたと知ったらやるンじゃなかった。なにしろ、辻、町角で咎められるンで二人とも業を煮やし、こんど出て来たら当身を喰わせて逃げようと、ちょうど相談が出来あがったところへあんたが飛びだして来たようなわけで……」
「いや、ようござんすよ。どうせね、わたしなンざ当身をくらってひっくりかえる芝居の仕出《しだ》しなみ。文句を言えた柄ではありやせんのさ」
阿古長は、なだめるように、
「まア、そうむくれるな。いわば、もののはずみ。それはそうと、だいぶ手びろく手配りをしているが、いったい、なにがあったんだ」
ひょろ松は、すぐ機嫌をなおして、
「あなたもご存じでしょう、重三郎の伏鐘組《ふせがねぐみ》。ついこのあいだあんな騒ぎをやっておきながら、またぞろ今夜大きなことをやりやがったんです」
「ほほう、なにをやった」
「神田左衛門橋の酒井さまのお金蔵から四日ほど前、出羽の庄内鶴岡《しょうないつるおか》から馬つきで届いた七万六千両、そのままそっくり持って行ってしまったンで」
「なんでまたそんな箆棒《べらぼう》
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