われる毛抜の音、阿弥陀の六蔵、駿河の為と、この三人はもちろん、船頭に化けて水馴棹《みなれざお》をつかっていた一味十二人、そのままそっくりこっちの網に入りました」
「そんならなんでこんな騒ぎをする」
「いけないことには、伏鐘重三郎が茅場町あたりで上ってしまったんです。足どりを辿ると、そこから八丁堀まで歩いて行って、八丁堀の船清という船宿から猪牙《ちょき》に乗って浜松町一丁目まで行き、佐土原屋という木綿問屋へ入ったということがわかった。それっというンで佐土原屋を押しつつむと、こっちの焦りかたもいけなかったんですが、引っかかったのは店にすわって金巾《かなきん》をいじくっていたほんの下ッ端の五六人。伏鐘と頭株の十二三人は二階から物干に出てチリチリバラバラに逃げてしまいました。これがちょうど四ツころの騒ぎで。……しかし、こっちもひろく手を配ってあるンだし、あそこから田町へかけては堀と橋ばかりのようなところだから、縮めて行ってとうとう芝浦まで追いつめたンです。……月のいい夜だから、あの原っぱへ追いこんだら、もうこっちのもんだと多寡をくくったのがいけなかった。夏草のあいだを走りぬけて行く姿はたしかに
前へ
次へ
全30ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング