拠というほかない」
十吉と孫太郎が左右から藤五郎の手をとって、
「おい、大清、一緒に番屋まで来てくれ」
グイと引立てた。
十五日
駕籠屋さん。もとは江戸一の捕物の名人。冬瓜《とうがん》のお化け、顎十郎こと仙波阿古十郎。
息杖によりかかってひょろ松の話を聴いていたが、ひと切がつくと、眉をしかめて、
「おい、ひょろ松、そいつはいけねえなア。ひょっとすると、そりゃア藤五郎がやったんじゃねえぜ」
と言って、相棒のとど助のほうへ振りかえり、
「ねえ、とど助さん、チト妙な節があるじゃありませんか。恨むすじは吉兵衛のほうにあるが、藤五郎のほうにはない。そうまでおとなしくしているものを、おもんが吉兵衛とどうのこうのぐらいのことで、殺して家へ火をつけるなんてことをするものでしょうか」
とど助はうなずいて、
「手前もさっきから訝《いぶか》しく思っていたのでごわす。なんとしてもその点が腑に落ちません」
「そうですよ、殺すにしろ火をつけるにしろ、もっと手軽な方法がいくらでもある。わざわざ難儀して手のかかることばかりやっているとしか思われてならない。つまりね、なんとなく不自由で、不必要に企
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