相。
とど助のほうは、これはどう見たって浪人くずれ。それも、なみの武士じゃない。いわば、出来そくない。
身の丈五尺九寸もある大入道《おおにゅうどう》の大眼玉《おおめだま》。容貌いたって魁偉《かいい》で、ちょうど水滸伝《すいこでん》の※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵《さしえ》にある花和尚魯智深《かおしょうろちしん》のような面がまえ。
それだけならまだいいが、アコ長のほうはせいぜい五尺五六寸の中背だから、このふたりが差しにないということになると、駕籠はいきおい斜め宙吊りとあいなり、客はツンのめったままで行くか、あおのけになって揺られるか、いずれにしても、普通には行かない。これじゃ、だれだって恐れをなして逃げ出してしまう。
アコ長は、水ッ鼻をすすりながら、マジマジととど助の顔を眺めていたが、いまいましそうに舌打ちをして、
「……思うにですな、とど助さん、今日のあぶれは、こりゃアあんたのせいなんですぜ」
「これは聞きずてならん。なんでわしのせいか」
「だって、そうじゃありませんか。わたしとあんたがこの商売をはじめる当初から、あんたは客呼びをしな
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