ろう、言って見るがいい」
狸は、嬉しそうに頭をさげて、
「ありがとうございます。……では、ご親切に甘えて申しあげます。ひょっとするとお聞きになったこともおありでしょうが、わたくしは、四国讃岐の禿狸《はげたぬき》なンでございます」
とど助は、うなずいて、
「うむ、知っておる。伊予《いよ》松山の八百八狸《はっぴゃくやたぬき》、佐渡《さど》の団三郎狸《だんざぶろうたぬき》……讃岐の禿狸といえば、大した顔だ」
狸は、てれ臭そうに、額を掻いて、
「そんなふうにおっしゃられるとてれッちまうんですが、実は、わたくしは、京極能登守さまのお先代がお屋敷に金比羅さまを勧請なさいましたとき、金比羅さまのお伴をして讃岐からやってまいりまして、この狸穴《まみあな》に住みついたのでございますが、おいおい眷属が増えまして、只今、三百三十三狸になっております」
「それは、えらい繁昌だの。……それで、なんのために所変えなどいたす」
「以前までは、われわれは大切にかけられ、町内にお狸月番などというものがございまして、供物や掃除やとよく行きとどき、いたって気楽に暮らしておりましたのですが、そういう古老がおいおい亡《な
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