そうにもじもじしていたが、やがて思い切ったように、
「お連れくださるというんでしたら、打ちあけたところをお話しますが、……実は、わたしは、狸なんです」
アコ長も、とど助も驚いて、
「えッ、狸!」
「これは珍だ。かつぐのではなかろうな」
「なんの、本当の話です」
アコ長は、小男を見あげ見おろしながら、
「なるほど、うまく化けるもンだ。ざっと見ても、素ッ堅気の若旦那。どうしたって、狸になんぞ見えやしない」
「お褒めくださらなくてもようございます、このくらいのことなら雑作ないんです」
「器用なものだの。……それで、どんな用件があって、豊島ガ岡へなぞ行くのだ。狸の寄りあいでもあるというわけなのか」
狸は首をふって、
「いいえ、寄りあいというわけじゃありません。実は、所変えをしようと思いまして……」
「なるほど、宿変《やどが》えをするというのだな」
「さようでございます。……それで、ご親切ついでに、もうひとつ、お願いがあるのでございますが……」
アコ長は、おもしろがって、
「狸とつきあうなんざ、なかなか振《ふる》っている。乗りかかった船だ。どんなことだか知らないが、出来ることならやってや
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