》としていたが、お調べも間もない辰刻《いつつ》になると、とつぜんカッと眼を見ひらいて、
「〆《しめ》たッ」
 と、膝を打つ。ヘラヘラ笑いながら自堕落《じだらく》に身体を投げだし、ゴロリと板敷のうえに寝ころがると、いつものように肘枕をつき、
「ふふん、これで、どうやら眼鼻がついた」
 と、つぶやいた。
 いつもの顎十郎らしくもなく、たったこればかりのことで意気銷沈し、いやに神妙に首を垂れていると思ったら、あにはからんや、そうじゃなかった。顎十郎は、ウマウマとはめられた竹箆《しっぺ》がえしの方法を今まで沈考《ちんこう》していたのだった。
 顎十郎は、揚屋格子のほうをうっそりと眺めながら、
「あの陽ざしの工合では、もう辰の刻。間もなくお調べがあるだろうが、ここまで漕ぎつけりゃア、こっちのもの、たぶんなんとかなるだろう。……せめてあのときの使いの手紙でも手もとにあったら、こんな苦境に陥《おちい》らなくてもすんだろうが、むこうの言いなり次第にうっかり返してやったばっかりに、とんだ目にあってしまった。……こうなった以上は、せめて、ぬすっとの手がかりだけでもつけておかねば二進《にっち》も三進《さっち
前へ 次へ
全29ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング