てもらいましょう。焼物は、魴※[#「魚+弗」、第3水準1−94−37]《ほうぼう》の南蛮漬。口がわりは、ひとつ、手軽に、栗のおぼろきんとんに青柳《あおやぎ》の松風焼《まつかぜやき》。……まア、だいたい、これくらいにして、後はおいおい、そのつど追加するとし、とりあえず、いま言った分だけをここへずらずらッと並べていただきましょう」
 小波は、改まった会釈《えしゃく》をしてひきさがって行ったが、間もなく、爪はずれよく足高膳《あしたかぜん》に錫のちろりをのせて持ちだし、つづいて、広蓋《ひろぶた》に小鉢やら丼やら、かずかずと運んで来て膳の上にならべる。
 顎十郎は呆気にとられ、
「これはどうも、まさに即意当妙《そくいとうみょう》。こうまで水ぎわだっていようとは思わなかった。こういう芸当を演じるには莫大な無駄と費用がかかるもの。うすうすは察していたが、小波さん、あなたの殿様てえひとは、よほど派手な方とみえますな。贅沢といっても、これほどのことはなかなか出来にくい。お留守居にはずいぶん通人も多いが、ちょいとこいつは桁はずれ。まったく、感じ入りました」
 小波は、愛らしくうなずいて、
「殿様は能登《の
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