《とぼ》けているな。……ひょろ松、お前そう思わないか」
ひょろ松は、いよいよ苦りきって、
「べつに、恍けているなどと思いませんねえ。……ここにいて、聞くな、はおかしいが、まア聞かぬつもりにしていてください」
「そう、とんがるもんじゃない。茶々をいれているわけじゃない、いかにも馬鹿々々しいところがあるから、それで、そう言うんだ」
といって、又右衛門のほうへ向き、
「そら、いま、なんとか言われましたな。……蛇よけ呪文というのを、もう一度きかせていただきたいのだが」
「お望みとあれば、いたします。……『なんぽーゆーちょうちょう、ちゅうゆーけつけつ、ちゅうじゃアじゃアちゅうゆうし』というのでございます」
顎十郎は、大口をあいて笑い出し、
「だから、それがおかしいというんです。……なんぽーゆーちょう、ちょうちゅうゆーけつ……そいつを漢字になおすと、こういうことになる。……『|南方有[#レ]塚《なんぽうにつかあり》、|塚中有[#レ]穴《つかのなかにけつあり》、|穴中有[#レ]蛇《けっちゅうにじゃあり》、|蛇中有[#レ]屎《じゃちゅうにしあり》』……早口に棒読みにすると、なにかもっともらしく聞
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