らしく、そこへ来た、あそこへ来た、と部屋じゅうを狂いまわる。
音に高い北見村斎藤伊衛門の蛇除《へびよけ》の御守をもらって、お小夜の部屋の戸障子の隙間や窓々に貼りつけて見たが、いっこう、なんの験《しるし》もない。
府中、山伏寺、覚念坊《かくねんぼう》の蛇除のお加持《かじ》は、たいへんにいやちこだというので、さっそく迎えて加持をさせたところ、これは、金井の蛇塚の蛇姫様《へびひめさま》を殺した祟りで、山棟蛇の眷族《けんぞく》三百三十三匹がお小夜に取り憑いているのだという。
それではどうすればいいのかとたずねると、覚念坊は、
「この蛇神の執念は、いかにも強く深くござって、いかなる秘咒《ひじゅ》をもっても、それをとくことはなし難い。これはすべて輪廻《りんね》の造顕《ぞうけん》によることでござって、まして、限り知れたわれらの法力《ほうりき》では、その呪いから遁《のが》れしむることはむずかしゅうござる」
と、たよりのないことをいう。
せんじ詰めたところは、自分の法力では、一日に一匹だけしか取りのけることが出来ないので、三百三十三匹をぜんぶ取りのけるまで、御病人のいのちが保《も》ちあうかどう
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