戻って来てニヤニヤ笑いながら、
「おい、ひょろ松、欄間のボヤボヤの光がなくなったろう?」
振りかえって見ると、なるほど、今まであった光がなくなって、さっきのように暗くなっている。
「お、なくなりました。いったい、これは、どうしたというんです」
顎十郎は、とほんとした顔で、
「どうも、こうもない。……つまり、これでこの朽穴が、お蛇体の通り道だということがわかったんだ」
「ほほう……。でも、叔父の話では、胴まわり一尺もある大蛇だという話だが、どうしてこんな小さな穴から……」
「そこが、それ、魔性《ましょう》の変幻自在なところ。入ろうと思えば、どんなところからだって入って来るだろう。……とまア、平素なら恍けておくところだが、今はそんな場合じゃない。それに、まごまごしていると、えらいことになる。実はな、ひょろ松」
いつもにもなく、真顔になって、ひょろ松の耳に口をあて、なにか、ひと言二た言ささやくと、いったいどんなことだったのか、ひょろ松が、
「おッ」
と、驚異の叫び声をあげた。
道行《みちゆき》の段《だん》
その後、蛇体が欄間を伝うことはなかったが、お小夜の物狂いはいっこう
前へ
次へ
全25ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング