大蛇が伝うという欄間のほうをうかがいはじめた。
そのうちに、八ツ……八ツ半……。とうとう九ツになったが、いっこう、なんの異変も起らない。蛇体はおろか、守宮《やもり》いっぴき這い出さぬ。
顎十郎は、痺《しび》れを切らして立ちあがり、
「こいつアいけねえ、こんないい男がふたりもここに這いつくばっているので、女体がはにかんで出て来ねえのだと見える。……それにしても、江戸一の捕物の名人がふたりもこんなところに鯱《しゃち》こばっているには及ばない、半刻替りということにしようじゃないか。……おれは、その前に、ちょっと不浄へ……」
と言いすてて、廊下のはしへ曲りこんで行く。
間もなく、むこうのほうで手洗鉢《ちょうずばち》の柄杓《ひしゃく》をガチャガチャいわせていたが、のそのそと戻って来て、
「これで、さっぱりした、さあ、代ろう」
神妙なことを言いながら、例の欄間のほうに眼をやっていたが、なにを見たのか、とつぜん、おッと低い叫び声をあげた。
ひょろ松が、顔を引きしめてそのほうを眺めると、今までなんのきざしもなかった欄間の上あたりに、クッキリと明るい光がさし、それが陽炎のようにゆらゆらと揺れ
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