すみましょう。……じゃ、また土扉をしめますよ。……もう一刻のご辛抱……」
 四人を土蔵の中へ押し入れるようにして厳重に錠をおろし、大きな鍵をブラブラさせながらひょろ松のところへもどって来て、
「……見た通り、まだなにごとも始まっていないが、油断は禁物、この四半刻が命のわかれ目……ひょっとして、内部から飛び出すやつでもあったら、誰かれかまわず遠慮なく引っくくってしまえ。土蔵のまわり、裏木戸にもぬかりなく人数を伏せてあるだろうな」
「へえ、そのほうは大丈夫でございます。どんなことがあったって、鼠一匹はいだせるものじゃありません」
 そう言っているところへ、泉水のむこうの植込みの下から影のように這って来たひとりの若い男。廂《ひ》あわいの近くまで来て、
「旦那……」
「おお、猪之吉か。……柚木先生にお目にかかれたか」
「へえ、お申しつけ通り、ご返事をいただいてまいりました」
「早く、こっちへよこせ」
 引ったくるように受けとると、封を切る間ももどかしそうに月の光で立ち読みをしていたが、
「おッ、やっぱり、そうだったか」
 このとき、とつぜん、土蔵の土扉をはげしく打ちたたく音とともに、
「もし、
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